重症筋無力症

重症筋無力症

重症筋無力症とは?

重症筋無力症とは?

重症筋無力症は、神経と筋肉の間の情報伝達がうまくいかなくなることで、筋肉が思うように動かなくなる病気です。特に、まぶたや顔、腕、脚などの筋力が低下しやすく、疲れやすさを感じるのが特徴です。症状は個人差がありますが、適切な治療やケアを受けることで日常生活を快適に送ることが可能です。

主な原因

主な原因

重症筋無力症の主な原因は、自己免疫反応によるものです。免疫システムが誤って、自分自身の神経と筋肉をつなぐ「アセチルコリン受容体」を攻撃してしまうことで、筋肉が適切に反応しなくなります。このため、筋肉がすぐに疲れてしまったり、動かしづらくなったりします。
また、胸腺の異常が関連している場合もあり、一部の患者さんでは胸腺腫(胸腺の腫瘍)が見つかることがあります。

主な症状

重症筋無力症の症状は、時間帯や体の状態によって変化することがあります。
代表的な症状は以下の通りです。

目の症状
まぶたが下がる(眼瞼下垂)、複視(ものが二重に見える)

筋力低下
顔の筋肉や喉の筋肉が弱くなり、話しづらさや飲み込みづらさを感じる

全身の筋力低下
腕や脚の筋力が低下し、歩行や持ち上げる動作が難しくなる

疲れやすさ
運動や活動後に症状が悪化することが多い

日常生活での注意点

重症筋無力症の方が日常生活を快適に過ごすためには、以下のポイントを意識することが大切です。

1.適度な休息をとる
疲れが症状を悪化させることがあるため、無理をせず、こまめに休むようにしましょう。
2.ストレス管理
ストレスは症状を悪化させる要因の一つです。リラクゼーションや趣味の時間を大切にしましょう。
3.体温調整
暑さや寒さが症状に影響する場合があります。快適な温度で過ごせるよう工夫しましょう。
4.医療チームと連携
主治医や鍼灸師などの専門家と定期的に相談し、適切な治療やケアを受けましょう。
5.栄養バランスを意識する
食べ物を噛んだり飲み込むのが難しい場合は、無理せず調理法を工夫しましょう(スムージーやスープなど)。

西洋医学での治療法

重症筋無力症(Myasthenia Gravis)の西洋医学的な治療は、病気の進行を抑え、症状をコントロールし、患者の生活の質を向上させることを目的としています。以下に、主な治療法を紹介します。

1. 薬物療法
抗コリンエステラーゼ薬
•代表例・・・ピリドスチグミン(メスチノン®)
•目的・・・神経から筋肉への信号を伝える「アセチルコリン」を分解する酵素(コリンエステラーゼ)の働きを抑える薬です。これにより、筋肉の動きを改善します。
•効果・・・軽度から中等度の症状に有効。
•注意点・・・副作用として消化器症状(下痢や腹痛)、唾液分泌の増加などが見られることがあります。

免疫抑制薬
•代表例・・・ステロイド(プレドニゾロン)、非ステロイド性免疫抑制薬(アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス)
•目的・・・自己免疫反応を抑制し、病気の進行を抑える。
•効果・・・中等度から重度の患者に有効で、症状の安定化が期待されます。
•注意点・・・感染症リスクの増加、糖尿病、高血圧、骨粗しょう症などの副作用が起こる可能性があります。

モノクローナル抗体
•代表例・・・リツキシマブ、エクリズマブ(ソリリス®)
•目的・・・特定の免疫細胞や補体系(免疫の一部)の働きを抑えることで症状を軽減します。
•適応・・・他の治療に反応しない重症筋無力症に使用されることが多い。
•注意点・・・高額で、感染リスクが高まる場合があります。

その他の薬剤
•免疫グロブリン療法(IVIG)
静脈注射で免疫グロブリンを投与し、免疫反応を調整します。急性増悪(クリーゼ)や症状が急激に悪化した場合に使用されます。

2. 血液浄化療法
血漿交換療法(Plasmapheresis)
•目的・・・血液中の自己抗体(病気の原因物質)を除去する。
•適応・・・症状が重い場合や急激な症状悪化時(クリーゼ)に行われます。
•効果・・・即効性があり、数日から数週間にわたり症状を改善します。
•注意点・・・一時的な効果であり、定期的な治療が必要な場合があります。

3. 外科療法
胸腺摘出術
•目的・・・胸腺(免疫反応に関与する器官)を摘出することで、免疫系の異常な活性を抑える。
•適応・・・胸腺腫を伴う患者や、若年者の一部の非胸腺腫型患者に勧められる。
•効果・・・病気の進行を遅らせたり、症状を軽減したりすることが期待されます。
•注意点・・・手術にはリスクが伴うため、慎重な判断が必要です。

4. 呼吸管理
•重症筋無力症の急性増悪(ミオグラビス・クリーゼ)では、呼吸筋が影響を受けて呼吸不全を引き起こすことがあります。この場合、人工呼吸器などを用いて緊急対応を行います。

治療の選択と組み合わせ
治療法は患者の年齢、病気の進行度、症状の程度、合併症の有無などに応じて個別に選択されます。薬物療法と非薬物療法を組み合わせることで、最適な結果を目指します。

重症筋無力症と鍼灸治療

鍼灸が重症筋無力症に対して効果があると考えられる理由はいくつかあります。ただし、鍼灸は根本的な治療ではなく、補完的なアプローチとして役立つことが多い点に留意してください。以下にその主な理由を挙げます。

1. 自律神経系の調整
重症筋無力症の症状には、ストレスや疲労が関与することがあります。鍼灸は、自律神経系(交感神経と副交感神経)のバランスを整える作用があるとされています。これにより、ストレス軽減やリラックス効果が得られ、症状の悪化を防ぐことにつながります。

2. 血流改善
鍼灸によって血液循環が促進されることで、筋肉や神経組織への栄養や酸素の供給が改善されます。これにより、筋力低下や疲労感の軽減に寄与します。

3. 免疫系の調整
鍼灸には、過剰な免疫反応を抑制し、体の免疫バランスを整える可能性があることが示唆されています。重症筋無力症は自己免疫疾患の一種であるため、この免疫調整作用が補助的な効果をもたらすことにつながります。

4. 炎症の抑制
鍼灸が体内の炎症反応を緩和する働きを持つことが報告されています。重症筋無力症において、炎症が症状の一因となる場合、鍼灸による炎症抑制が症状緩和に役立ちます。

5. 気血の巡りの改善(東洋医学的視点)
東洋医学では、重症筋無力症の症状を「気虚(体力不足)」「血虚(栄養不足)」や「気滞(エネルギーの滞り)」として捉えることがあります。鍼灸治療では、気血の巡りを改善し、全身の調和を図ることで、症状を和らげることを目指します。

6. 症状ごとにアプローチできる個別性
重症筋無力症の症状は患者ごとに異なるため、鍼灸では個々の症状や体質に合わせた治療を行います。例えば、眼瞼下垂に対する治療では目の周りのツボを刺激したり、全身の疲労を軽減するために基本的な経穴(ツボ)を活用します。

鍼灸は、全身の血流や気の巡りを整えることで、体の自然治癒力を高めるサポートが期待できます。特に、疲れやすさの軽減やストレス緩和、全身のバランスを整えることを目的に行う治療が効果的です。
また心身のバランスを整え、患者さんの生活の質(QOL)向上にもつながります。症状や体調に合わせた個別の施術を行いますので、お気軽にご相談ください。

西洋医学と鍼灸との併用

重症筋無力症(MG)の治療において、西洋医学と鍼灸を併用することは、両者の強みを活かし、患者さんの症状改善や生活の質(QOL)向上に寄与する可能性があります。それぞれの役割が補完的であり、以下のようなプラス面が期待できます。

1. 多角的なアプローチが可能
•西洋医学の役割
薬物療法や外科療法を用いて、病気の進行を抑えたり、原因(自己免疫反応)に直接働きかけたりする。
•鍼灸の役割
体全体のバランスを整え、症状の緩和や副作用の軽減、日常の快適さを向上させる。
これにより、病気自体の治療と、患者の体調管理・症状緩和を同時に進めることが可能になります。

2. 薬の副作用の軽減
重症筋無力症の治療に用いる免疫抑制薬やステロイドには、消化器症状、免疫低下、倦怠感などの副作用があります。
鍼灸はこれらの副作用を軽減するサポートが期待されます。例えば・・・
•倦怠感の緩和・・・気血の巡りを改善し、エネルギー不足を補うことで疲労感を軽減。
•消化器症状の改善・・・胃腸機能を整えるツボへの刺激が効果的。
•ストレス緩和・・・自律神経の調整を通じて、精神的な安定をもたらす。

3. ストレス軽減と心身のリラクゼーション
重症筋無力症は、症状が悪化することでさらに不安やストレスを招く悪循環に陥りやすい病気です。鍼灸には、リラクゼーション効果やストレス軽減効果があり、患者さんの心身の状態を安定させることが期待できます。
また、西洋医学による治療では心のケアが手薄になることがありますが、鍼灸では全人的なアプローチが可能です。

4. 自然治癒力の向上
鍼灸は、身体の自己調整機能を高めることで、体が自ら回復する力(自然治癒力)を引き出します。これにより、治療の相乗効果が得られやすくなします。

5. 症状の緩和や維持療法としての役割
重症筋無力症の症状(眼瞼下垂、疲れやすさ、筋力低下)は西洋医学だけで完全にコントロールできない場合があります。鍼灸治療を併用することで、以下のような改善が期待されます。
•眼瞼下垂の緩和・・・目の周りのツボへの刺激で症状が軽減される可能性。
•筋肉の疲労感軽減・・・血流改善や筋肉の緊張を和らげる。
•日常生活の質の維持・・・軽い症状の緩和を目的とした定期的なケアとして。

6. 患者の満足度向上
西洋医学の治療効果に加えて、鍼灸によるリラクゼーションや症状緩和を体感することで、患者さんの治療に対する満足度が向上する可能性があります。「自分の体に寄り添ったケアを受けている」という実感が、心理的な安心感や治療への前向きな姿勢を育みます。

西洋医学で病気の根本に働きかけつつ、鍼灸で心身のバランスを整えることで、患者さんが快適な日常を過ごせるサポートが可能になります。

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